私の仕事は寿司屋です。

シャリは機会で作り、
前もって仕込んだネタを乗せるだけです。
集中力と根気のいる仕事だと思います。

私は手先が不器用なのか、要領が悪いのか
包丁を扱うのはとても下手くそです。

人との対話や、電話の対応も苦手だし、
計算をする時も電卓がなくては難しいです。
なので、発注などは一切任されていません。

発注するものは主に
寿司ネタ、海苔、トレー、掛け紙。
それを全て1人の年配の先輩が引き受けています。

仮にこの方をAさんとします。Aさんは発注だけでなく、
魚のサクを寿司ネタ用にスライスしたり、
ネギを細かく刻んだりと、何でもこなします。

私は主にAさんの負担をなるべく減らそうと
ひたすら商品を作り、雑用や掃除は全て私が。
ほとんどの肉体労働が私に回り、
頭の使う作業はAさんが担当します。


今日一日、実際にあった内容をこれからお話しします。


その日、今日は、寿司のみ全品半額という
売り出しをやっていたのですが、前の日にAさんから
「私は朝から巻物や鰻をやるから寿司ネタはちゃんと把握しておいてね。」


いつものことながら、寿司は私が担当することになりました。


朝は客が入る前に寿司を沢山作り置きしなくてはなりません。
その他の、巻物、押し寿司、ちらし寿司、鰻重、などは半額商品の対象外です。
これらをAさんが担当します。因みに量は普段どうりの量だけ作ればいいのです。
押し寿司など一本作ってしまえばそれで終りです。
それだけではなく、巻物系や押し寿司は前の日に作り置きをして、当日の朝、朝一に切って梱包するだけです。そのあとは鰻重を作り、ようやく寿司を手伝えるようになります。
Aさんが終わらせるまでに沢山の寿司を作っておかないと、「まだそれだけなの?」と、言われて機嫌を損ねてしまうので、より多く作るために一度に12単位で作っていきます。

今日もその流れで寿司を作っていくはずだったのですが、
今日は助っ人のCさんが来てくれたのでAさんがやる予定だった鰻重はCさんがやる事になりました。


開店前まであと30分でした。出来上がっていない商品か二品ありました。
12単位で作ると、かかる時間は早くて20分。
2人で分担すれば早く終わりそうですがAさんは
「二品同時に作りなさい」と、指示を出しました。
半分ずつの量でこなすしか時間は間に合いません。
Aさんは、手伝ってくれるのではなく別の寿司を作り始め、私はそれに間に合うように二品同時に作り、ギリギリ間に合わせることができました。

Cさんの助けもあって午前中までは順調でした。しかし、
半額というだけあって、飛ぶように売れていきました。
Cさんもたまに寿司を手伝うのですが、それでも間に合いませんでした。

私も出来ることなら寿司に集中したかったのですが、前の日の寿司ネタの準備は私がしていたのでそうも言ってられません。
「寿司ネタは把握しなさい」ということは、「寿司ネタが足りなくなった!」何てことになっては大変です。冷凍なら溶かすまで時間がかかるからです。Aさんの機嫌を損ねてしまいます。
さらに、シャリ機に近い私はシャリの面倒を見なければならないのです。空になれば当然10kgあるシャリ箱を持ち上げて機会に入れなければならない事になっているからです。

そして、私の作業場は、店の外から割と近いので
表で寿司の状況を見つつ、なくなったなら補充しなくてはならないのです。

アレがないコレがないと、積極的にどんなに早く動いても、寿司が作れなくなるのは必然的な事です。
私が短気なだけなのかもしれないですが……
そこで「まだ終わってないの?」と、言われるとカチンときます。


午後になり、まだまだ終わりそうもなかったので機会にシャリを、量はまるまる10㎏入れたときでした。
今まで寿司を作るだけだったAさんは、それを見るなり
「全部入れちゃったの?! 半分で良かったのに!!」
その時、Aさんはよっぽど早く帰りたかったんだと思いました。
何故なら、シャリ機の中のシャリが出尽くすまで寿司を作らなければ、シャリ機を洗えなくなってしまうから。
あれほど地雷を踏まないようにしてきたのに、Aさんの様子は、不機嫌になったと一目で解りました。
そこからは、Aさんの歩くスピードも早くなり、物を置く時などガシャンと音を立てながら作業をしていました。しまいには「まだ終わってないの?」と、急かしてくるのです。

流石に精神面は言わずもがな、それ以前に人より多く動いて、その分スピードも早く心がけていた私はそろそろ疲れがピークを越えて左手に力が入らない程でした。
寿司が思うように握れず、確かにスピードもだいぶ落ちていました。するとAさんは「クールダウンかぁ?」と言い、そこでCさんは気にかけるとAさんは続けて「飽きたんだな」と、自分の良いように自己解釈するのです。

それまで12単位づつで作っていた寿司もシャリを全部入れてしまってからは、「サビ抜きつくろっと」と、言って6個単位へと減って、なかなか機械からシャリを出すまでに時間がかかってしまいました。

結局、シャリを出し尽くしたあとも作り続けたので、結果的には入れても何の問題もありませんでした。しかし、Aさんの機嫌は一向によくなることはありませんでした。
寿司を12個単位に、それぞれ分担して作ってくれた方が早く済んだのに、最後は軍艦類の寿司ばかり作り出し、さっさと終わらせろよとばかりに、共同作業で終わらせようとするのです。

そんな事をするくらいなら機械や明日の準備くらいしてくれても良かったのに……。結局、機械は私が洗って、後片付けや品出しチェックも私がやりました。


Aさんはその間、発注だけしていました。




寿司屋を務めて5年経ち、そろそろ左手が悲鳴をあげています。
ので、そろそろ潮時なのかもしれないですね。
明後日、病院に行く事を決めました。